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腎がんのメモリー20(ある物理学者の最期の挑戦)

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 12日に再放送(初回2009年)されたNHK「物理学者 がんを見つめる…戸塚洋二 最期の挑戦」。ニュートリノ研究の最先端で活躍した戸塚さんの闘病(直腸がん~肺・脳転移)と真摯で科学者らしい生き様にうたれました。「腎がん」の記録ではありませんが、敬意をこめここに記します(TV放映された画像を拝借しました)。

 

 常識を覆す物理学の革命

 宇宙は永遠に膨張するのか、いつか収縮し死に向かうのか・・・。謎を解く鍵は、ニュートリノに「質量が有るのか無いのか」にありました。そして1998年、カミオカンデを率いる戸塚洋二さんが、ニュートリノに「質量がある」ことを世界で初めて実証、「質量はゼロ」であるとの前提に組み立てられていたそれまでの宇宙物理学に革命をもたらしました。
  ※ニュートリノは、水素原子1個を地球とすれば小さな豆粒大、1立方cmに300個ほど存在します。

 「物理学の革命」を確固たるものにしたのは、戸塚さんが着手し2009年に完成したスーパーカミオカンデの実証実験でした。小柴さん(2002年度ノーベル物理学賞)から戸塚さんに引継がれた研究は、更に本年度ノーベル物理学賞の梶田隆章さんに引継がれました。戸塚さんが生きていれば間違いなくノーベル賞の栄誉に輝いたと言われる所以です。
  ※スーパーカミオカンデにより人工的にニュートリノを作り飛ばし分析が可能になりました。

 
                         ブログを記した戸塚さんのご自宅書斎

 覚悟をきめ 科学者の目で記録する

 戸塚さんは、直腸がんの再々発により2005年に研究の一線を退きました。そして2007年の夏にブログを始め、自らの闘病について克明に記したブログ名は「A Few More Months」。この時期、医師からは「手術、放射線では手におえない」ことを告げられていました。自分の人生の残されたスケールは「2~3か月」と覚悟を決めてのネーミングでした。
  ※ブログ名は後に「The Fourth Three-Months」と改められましたが、既に閉じられています。

 戸塚さんは、医師がCT画像を見較べながらがんの進行について「変わらない」「少し大きくなった」と語る言葉を奇異に感じていました。「実験屋」たる彼には数値として「〇mm大きくなった」でなければなりません。やがて彼はニュートリノに取り組んだように科学者(実験物理学者)の目で自らのがんの進行を捉えようと詳細な分析、記録を始めました。

 まず抗がん剤の効果を検証するため肺に転移した十数個のがん細胞の推移を部位別、大きさ別にCT画像を分析しました。正確を期しサプリメントなど抗がん剤以外は総てやめました。いかなるデータも冷静に記録、数値化が難しい「目がかすむ」「涙目になる」など抗がん剤の副作用も「患者の視点」から詳細に記録し、その結果に主治医も瞠目しました。
  ※医学界から「患者の目」と「科学者の目」を併せた貴重なデータと、高く評価されています。

 戸塚さんは2007年11月「がん患者フォーラム」に参加、「患者によるデータベース作り」を唱えます。がんは進行も転移も抗がん剤の効果も副作用も…みんなそれぞれ異なるので、自分とよく似ているがん患者の履歴・記録が最も参考になるとの提起です。戸塚さんには到底及びませんが、拙ブログ「腎がんのメモリー」も少しなりお役に立てば幸いに思います。

 
  肺転移したがんのCT画像から分析した進行推移   戸塚さんが「僕そのもの」と語ったヘルメット

 生きようとする思いと 進行しつづけるがん

 戸塚さんの奥さんが部屋の片づけをしていて、汚れた作業着やヘルメットを何気なく「もう要らないでしょ」と言った時、「何を言うんだ。それは僕そのものじゃないか」と…。奥さんはハッとし、改めて戸塚さんの生きようとする思い、研究現場に復帰したいとの思いに胸を衝かれます。しかし思いとは逆にがんは進行しつづけ、戸塚さんの願いは遠ざかります。
  ※戸塚さん「スーパーカミオカンデ完成の2009年まで生きられますか?」 医師「それは無理でしょう」

 がんは直腸から肺へ、更に脳へ。ご子息に判断を委ねられた最後の治療は、脳に転移したがんのガンマナイフによる切除でした。亡くなられたブログ友mさんもこの治療を受けられていた(サイバーナイフ)ことを思い出しました。埼玉の病院とありましたからTVのそのシーンはあるいはmさんと同じオペ室であったのかも知れません。見ていて…胸が苦しくなりました。
  ※「虹をわたったmさんに」 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/036a74bc16bf8e5f8afda96a0b7b82a8
  ※「ガンマナイフ」と「サイバーナイフ」については、コメント欄(aimacoさん記)をご覧下さい。

 少しずつ意識が「正常」な部分と「異常」な部分に分かれます。正常な意識の自分が異常な自分の行動を見つめている・・・不思議な体験をします。幻覚も現われます。絵に描くと、奥さんは「嘘でしょ」と笑ったそうですが、真剣な表情だったと…。通院のつもりで行ってそのまま入院することもあり、「2~3か月」と見ていた余命は9か月を過ぎていました。

 
                       戸塚さん自身が描きブログにUPした幻覚」

 死してなお科学者の目で

 2008.7.10…戸塚洋二さんは最期の時を迎えます。ご子息の「最期の一週間を一緒に過ごし初めて父の人格を知った」との言葉にうたれました。生前「天国とはどういうところか、あるのかないのか、死ぬ時に初めて観察できる。残念ながらその結果を伝えることはできないが…」と笑って語られた戸塚さん。死してなお科学者の目で観察されたことでしょう。

 本年度のノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章さんの記者会見で「戸塚さんが生きていたら共同受賞だったのではありませんか?」と少し品のない記者の質問がありました。梶田さんが「そう思います」と応じたその言葉は、戸塚さんの業績を冗長に語るよりはるかに誠実で実感がこもっていました。それが「科学者のチーム」というものでありましょう。

 
                                 ブログより編まれた書

 
【補遺】戸塚さんの書斎にたくさんCDがあり、マーラーの交響曲二番をよく聴くかれた由。私はこの曲を存じませんでしたが、第一楽章が始まるや まるで戸塚さんの心の音を聴いているように思い胸が震えました。


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【過去ログ目次一覧】
腎がんのメモリー http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/bee90bf51656b2d38e95ee9c0a8dd9d2
ごあいさつ http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/7de1dfba556d627571b3a76d739e5d8c
旅行記 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/23d5db550b4853853d7e1a59dbea4b8e
閑話休題 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/c859a3480d132510c809d930cb326dfb
かんわきゅうだい http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/a0b140d3616d89f2b5ea42346a7d80f0
吾輩も猫である~40 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/58089c94db4126a1a491cd041749d5d4
吾輩も猫である~80 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/dce7073c79b759aa9bc0707e4cf68e12
吾輩も猫である81~ http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/f9672339825ecefa5d005066d046646f
 



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