前回のブログ記は予想どおり?不評でした。或る種の "反感" を覚えられたのかも知れません。それはそれとして 思いがけず貴重なコメントをいただきました。ありがとうございました。今回 懲りずにまたカタイ!硬すぎる!テーマを取り上げます。でもまぁ この種のテーマはこれが最後になりましょう。
先夜のNHK - ETV特集選は「今 起きていることは何か? なぜこのような事態が引き起こされたのか? 過去と現在をひもとき 未来を見通す手がかりを探る!」。スベトラーナ・アレクシェービッチさん、ジャック・アタリさん、イアン・ブレマーさんの三人に道傳さんがインタビューしました。余りに長くなるため そのうちお二人にしぼってご紹介します。同意できないくだりも多々ありましたが そのまま記します。
【スベトラーナ・アレクシェービッチさん】… 1948年生。ベラルーシ出身、在ドイツのジャーナリスト。ロシアとウクライナを内側から見つづけ 苦難の渦中にある名もなき人々の声を丹念に掘り起こし、その記録、業績が高く評価されノーベル賞を受賞しました。
リモートでインタビューする道傳さん(左) とスベトラーナ・アレクシェービッチさん(画面)
私達の心に残った映像。それはロシアの巨大な戦車が何十台と連なりウクライナの村に入ってきた光景です。お年寄り、子ども、女性が手に何も持たず戦車に駆け寄り、戦車の前にヒザをつき、戦車を一歩も先に通すまいとする、涙があふれる怖ろしい映像でした。これから先に何が待ち受けているかわかりませんが、ウクライナの戦争は21世紀の最も恐ろしい犯罪として歴史に残るでしょう。
私の祖母はウクライナ人。夏休みはしばしば祖母の家で過ごし祖母の話を聞きました。
独ソ戦では数千万人の死者がウクライナに埋葬されました。学校ではソ連兵は英雄、ドイツ兵は憎むべき敵と教えられました。しかし祖母は 『どちらの兵士も可哀想だった』 と。祖母は戦争で夫やたくさんの親戚を失くしたにも拘わらず 等しく人を憐み戦争の狂気を理解する心を持っていました。
★ 道傳さん 『ロシア兵やその家族にとってこの戦争の意味は何でしょうか?』
捕虜になったロシア兵によれば “演習” と聞かされて従軍したようです。ウクライナに親族がいるロシア人もたくさんいるのに…。ロシアの人々は今まともな情報に接していないと思います。そうした今のロシア社会は “昏睡” 状態に陥っているという気がしてなりません。
三年前の春 … 戦禍が始まる前のウクライナの首都キーウ(キエフ) : NHK「世界街歩き」より
★ 道傳さん 『プーチン大統領がよく言う “屈辱” とは何でしょう?』
プーチンは “大ロシア主義” に憑りつかれています。第一次大戦で巨額の賠償と屈辱をなめ復讐心に燃えたヒトラーの “大ドイツ主義” と同様、流血しかもたらしません。自民族の優位性を誇ることはファシズムの最初の兆候であり、今起きていることはまさにその危険な兆候です。
ソ連の崩壊時、私はモスクワにいました。みんな “自由だ!自由だ!” と叫びましたが、収容所のような閉鎖社会で生きてきた人々は、収容所を出てすぐ自由な社会は作れません。自由がどんなものか本当には知らないのですから。結局、ソ連時代とちがう収容所を作りました。それが今 ロシアで起きていることです。
私達は “共産主義は死に絶えた!元には戻らない” と思っていましたが、最悪の形で再び現れました。
1991年.ソ連邦の崩壊でソ連邦を構成していた国々は資本主義経済に移行しました。プーチンも大統領就任時は民主主義を大きく掲げました(2000年)。しかしやがて民主主義の仮面を投げ棄て、最もダークな連中を頼りとし、権力の周りにエリートやカネの崇拝者が群がり “大ロシア” を目指しました。
プーチンの20年間は軍備(増強)と(自己正当化の)プロパガンダに多額の費用を費やしました。結果、国家には完全に人間性が喪われました。今はロシア人の冷蔵庫はいっぱい!かもしれませんが、やがてカラになれば人々も考え反応するようになるでしょう。
★ 道傳さん 『一人一人の勇気が試されています。本当の事を言う勇気はどの国でも試されていますが…』
真実は犠牲を伴います。私も故郷ベラルーシに帰りたいですが、ドイツにいるから本が書けます。30年余のルカシェンコ独裁ベラルーシに帰れば刑務所に送られるでしょう。健康・体力・気力がもちません。自分にできることを冷静に考えなければなりません。独裁が終わり自由に発言できるまで生き抜いてまいります。
キエフ郊外の大きなアーチ「ウクライナとロシアの友情の架け橋」 … 右上に少し亀裂が!
★ 道傳さん 『ロシアとウクライナ…和解は見い出せるでしょうか?』
怖しいほど困難だと思います。今、この戦争と二年前の ”革命” について本を書いています。
今 起きていることも いつかは終わります。ウクライナの今の若者とその子ども世代が成長した時、ロシアの人々とどうやって話をするのか。今、ウクライナで歌われている歌は 「僕らは二度と兄弟にはならない」 という歌です。これを救うのは “愛” だけだと思います。憎しみではけして救われません。
犯罪者は法で裁かれなければなりません。新しい人生を生きたいと望む者は、悔い改め赦し乞う人々とどう一緒に生きて行くのかを学ばなければなりません。でも それは未だ遠い先です。その日のために まず私達は勝たなければなりません。ロシアに勝たなければなりません。
ウクライナが勝って初めて旧ソ連の各地に民主主義の機会が訪れます。逆に プーチンが勝てば ウクライナという国は存在しなくなるでしょうし、それは “大惨事” です。ヨーロッパの平和にとっても大惨事です。でも私達はここから多くを学ぶでしょう。学ぶことで 今までの私達とは別の人間になるのです。
【ジャック・アタリさん】1943年生。フランスの経済学者。作家。思想家。フランスのサルコジ、オランド、マクロンの歴代政権を支え直接的影響を与えてきた欧州を代表する知識人です。
黄色がウクライナ。赤がロシア。左上のやや離れた小さな赤はリトアニアにあるロシアの飛び地。
★ 道傳さん 『なぜヨーロッパとロシアの距離は縮まらないのでしょうか?』
世界大戦の起きる危機は何度もあり警鐘を鳴らしてきました。最悪のことが起こりうること、大惨事の起きる可能性を忘れてはなりません。なぜなら歴史はこれまで様々な悲劇を繰り返してきましたからね。今回ウクライナで起きたことは十分起こり得ることであったし、更に酷いシナリオも想定されます。
今、ウクライナはNATOではないから!と民主主義の国は動こうとしません。そのためプーチンは西側は弱腰だと捉えています。”核”を使うだろうか?と考えつつもロシアはバルト三国を襲うかもしれません。西側の弱腰は中国にも影響し、ロシアがしたことを台湾にしてもいい!と思うかもしれません。米国が台湾に何もしなければ、日本は米国に頼れないと悟り 自衛のため核を保有するようになるかもしれません。
★ 道傳さん 『ロシア国内の実情とロシア国民の抵抗は?』
戦争が始まって明らかにロシアの利益に反する情況があります。ロシアは今後長期にわたlり孤立し貧しい国となり破産します。国民は多くの富を喪い世界との繋がりも喪います。良いことは何一つありません。
★ 道傳さん 『地政学は大きく変化するのでしょうか?』
地政学としては変わりません。”蛇の結び目” がクライマックスを迎えたということです。私達の頭上には何千発の核兵器があり核の脅威があります。そしてロシアも中国も民主主義の世界には仲間入りしていません。全体主義の国が民主主義に向かわない限り私達には戦争の危機があります。忘れてならないのは民主主義の国の間では戦争は一度も起きていないということです。しかし全体主義にとって民主主義は脅威であり、戦争を仕掛ける理由になります。民主主義の方が良いと、国民に気づかせることも脅威になります。
★ 道傳さん 『”蛇の結び目”をどう解きますか?』
ネガティブにならない、悲観的になりすぎない、弱気にならないこと。どんな交渉のチャンスも逃さないこと。そして、ウクライナやロシアで抵抗する勇敢な人を支援すること。この状況下でリスクを負う勇敢なロシア人を歓迎すること。ロシアや中国の人たちの気持ちが変わるよう、できる限りのことをすること。私たちは敵ではないことを気付かせ、民主主義のほうがよいと思ってもらえるようにすることです。
いずれにしてもロシアは欧州の一部であるべきだと思います。
1989年、ベルリンの壁が崩壊しましたが、アメリカはロシアを民主主義の国に引き入れることに後ろ向きでした。欧州復興開発銀行(EBRD)には投資にあたって大きな条件 “民主主義に向かわない国には投資をしない” という条件があり、ロシアもそのことに同意していました。その頃、ロシアもEUに加盟したいというメッセージが届いていた筈です。ロシアがそう願いつづければ、そして法の支配・腐敗からの脱却・民主化への意欲を見せていたら、欧州諸国はロシアを歓迎したでしょう。
キーウの教会。 現在、死傷者はここに運ばれ弔われ あるいは救護されている由。
★ 道傳さん 『冷戦の終結で世界の目は中国に注がれロシアは関心の外に置かれました』
旧共産圏の国々の多くが民主化を果たし欧州の仲間入りをしました。東欧諸国に出来たことがなぜロシアに出来なかったのか?は、ロシアという国が巨大であるがゆえです。そのうえロシアの支配層には素行が悪く西側諸国にはためらいがありました。
また米国という大国はいつも”敵”を欲していました。その頃は中国は未だ敵とは見られず、米国が議会で軍事予算を拡大するための”脅威”が必要でしたから、そこに米国の脅威としてのロシアの存在価値がありました。
★ 道傳さん 『アタリさんのHPには “Welcome to the Russians”と書かれています。そこでは、今起きていることは冷戦の残骸であり、私達は”最悪の事態”を避けるために冷静を保たなければならない、と書いていらっしゃいます。現在、私達が見ているものは “ポスト冷戦”の終わりの光景だということでしょうか?』
それは違います。”ポスト冷戦”などというものは元々なく 私達がいま見ている光景は ”冷戦の断末魔”です。双方に6000発の核弾頭があるというのに、ロシアは西側諸国と同盟を結んだことがありません。ですから今は “冷戦のクライマックス”であり、冷戦の終結は未だ先のことです。
三年前の教会ミサにて。キーウを訪ねたロシアの女性が平和の祈りを捧げていました。
★ 道傳さん 『冷戦が未だ終わっていないなら私達は何に備えればいいのでしょう?』
現在の光景を通して人々がより理解を深め冷戦の終わりへ向うことを期待する時にあります。
冷戦は双方が敗者であり、得るものは何一つなく喪うものばかりです。このままでは最悪の事態、大惨事を招きかねません。最善のシナリオがあるとすれば、今回の危機で今度こそ冷戦を終わらせなければと気づくこと、そのため西側もロシアもすべての人々の ”行動の変革”が必要とされています。
★ 道傳さん 『どう行動を変革するのですか?』
まずロシアの人々に何も勝ち取れないことを理解させること。つぎに民主主義へシフトすることが最善策だと理解させること。けして彼らを侮辱したり悪者に仕立ててはなりません。民主主義と市場主義経済こそ自分達の利益になることだと説くことです。
★ 道傳さん 『それはアタリさんがいつも仰る “利他主義” ということですね?』
はい。“利己的利他主義”と呼んでいます。 西側諸国にとってもロシアの民主化は自分達のためになります。またロシア人にとっても、民主主義の陣営に加わることは自分達の利益になることです。
今、ロシアの音楽や芸術を排斥する傾向がありますが、馬鹿げています。ロシアの音楽・演劇・文学をもっと歓迎し、深く知り、彼らを理解すること、両手を広げ一緒に彼らと何かをしてほしく思います。
♬ Sissel "Slow Down"
冒頭にも記しましたように こんな硬い!テーマはこれで殆ど最後になると思います。
私のブログもあと残り十数回…でしょうか。
始めた頃に遡りながら あれこれを記し 懐かしみたいと存じます。
【過去ログ目次一覧】
吾輩も猫である~40
http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/58089c94db4126a1a491cd041749d5d4
吾輩も猫である~80
http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/dce7073c79b759aa9bc0707e4cf68e12
吾輩も猫である81~140
http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/f9672339825ecefa5d005066d046646f
吾輩も猫である141~
http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/b7b2d192a4131e73906057aa293895ef
人生の棚卸し
http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/ddab58eb8da23a114e2001749326f1f1
人生の棚卸し(2)
https://blog.goo.ne.jp/00003193/e/22b3ffae8d0b390afee667c0e9ed92ed
かんわきゅうだい(57~)
http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/20297d22fcd28bacdddc1cf81778d34b
かんわきゅうだい(~56)
http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/a0b140d3616d89f2b5ea42346a7d80f0
閑話休題
http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/c859a3480d132510c809d930cb326dfb
腎がんのメモリー
http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/bee90bf51656b2d38e95ee9c0a8dd9d2
旅行記
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新聞・TV・映画etc.
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ごあいさつ
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名残の季節
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