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Channel: デ某の「ひょっこりポンポン山」
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影に對して…

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 既に古希を過ぎた私。父が今の私の歳であった時、そこから28を引いた歳の私を振返ります。その歳から更に27を引いた歳の息子を思います。父との歳の対比、同様に息子との歳の対比…。格別に意味のあることではありませんが、そのように来し方に思いを巡らせます。

 

 今年は 遠藤周作没後25年。未発表原稿の発見についてETV特集「封印された遺稿」(10/9) を視ました。遠藤周作が亡くなったのは73歳の時、現在の私とほぼ同じ歳です。生きていれば98歳の遠藤、そして生きていれば100歳の私の父。様々な感慨をもって番組を視ました。

 

 遠藤周作の未発表の遺作が発見されたのは昨年6月。没後、長崎の遠藤周作文学館に寄贈された遺品の中に2枚の自筆原稿と104枚の清書原稿があり、資料整理をしていた若い学芸員が「これは見たことがない、読んだこともない」と気づき、大きなニュースになりました。

 
      遠藤自筆の原稿は「燭影」(当初の表題?)が消され「影に對して」と上書されています。

 清書までされた小説がなぜ封印されたのか…。 遠藤周作自身と思われる小説の主人公「勝呂」は、父親との烈しい葛藤と母親への深い敬愛の狭間で苦悩します。殆ど事実を下敷きとした典型的な私小説であり、余りにリアルな描写が "封印" に繋がったと推測されています。

 
         少年時代の遠藤周作と父 常久 … 遠藤の硬い表情に父への心情が窺えます。

 「勝呂」の父は "平凡が一番" という安定志向の人物で『いかにもみみっちく自分の生活に満足しきっている老人』と描写されます。それに対して ヴァイオリンに人生を懸ける母は『五本の指が機械のように働きつづけ 弦の端から端を絶え間なく這いまわる』と描写されます。

 
     ヴァイオリンをもつ母 郁子の遺影 … 郁子の死顔は正視に耐えないほど苦痛に満ちていた由。

 小説「影に對して」の "影" とは 遠藤周作にとって 父の影であり母の影に他なりません。父と母の間には諍いが絶えず『父のきつい声や母の泣声がきこえる。その声を聴かぬために耳に指を入れ布団に中でじっとしていた自分の姿が痛いほど甦ってくる』と描かれています。

 
    「影に對して」に描かれる "アスハルトの道" は 安定した日常を望む父 常久を象徴しています。

 両親は遠藤周作が10歳の時に離婚、遠藤は兄とともに父の許で暮らします。離婚後、父親がすぐ再婚したのに対して母は孤独の裡にこの世を去り、小説では『母は貧しいアパートで誰からも看取られず死んでいった』と。遠藤周作自身の悲しみ、口惜しさが伝わってきます。

 
      "砂浜の道" には母 郁子の「高みをめざし生きた足跡を残す」人生の意が込められます。

 作品が "封印" された背景を考えると、遺族としても "封印" し続ける選択肢はあったと思います。しかし遠藤周作のご子息※は『父のために眠らせることも考えた。しかし作家というものは書いたものは世に出したいのではないか、と考え出版を決めた』と語っています。
            ※ 遠藤龍之介氏 … この名に父 遠藤周作の「思いの丈」を思いました。

  遠藤周作は学業は奮わず劣等感に苛まれていましたが、母は『あなたは文章が上手だから小説家になったらいい』と。32歳のとき「白い人」で芥川賞を受賞しますが、その2年前に母が亡くなったことが受賞へのインセンティブに働いたのかもしれない、と私は思いました。

 
            踏み絵に足をのせる司祭ロドリゴ…映画「沈黙 サイレンス」より。

 受賞作「白い人」には ナチスに協力し拷問をさえ愉しむ人物が描かれました。代表作「沈黙」では幕府が信者を拷問し棄教に導く光景が生々しく描かれ、主人公の司祭ロドリゴも棄教し背教者※として命を繋ぎます。「人間の弱さ」は 遠藤周作の生涯のテーマと思われます。
     ※ 司祭ロドリゴの "背教" に至る描写には様々な解釈とともに作品への批判もあります。

 ご子息の龍之介氏は、父 遠藤周作に誘われ最晩年の祖父 常久を見舞いに訪れます。父を憎みつづけた遠藤周作でしたが、その帰りに龍之介氏を蕎麦屋に誘い、そこで『もういいんじゃないかな』とポツリ!もらした由。その赦しの数年後、遠藤周作は73年の生涯を閉じます。

 

 私はキリスト教に無縁の少年時代を送り、やがて京都に来て そこかしこにキリスト教会があることに驚きました。そして或る日 「日曜礼拝」 の看板が出された教会に入りました。その時の牧師さんの"説教" は今も鮮明に憶えていますが、洗礼を受けるには至りませんでした。

 二十代半ば、書店で遠藤周作「イエスの生涯」を目にし 即購入しました。イエスとはどのような人物でどのような生涯を送り、弟子達はどのようにイエスを受け容れ従ったのか。恰も “評伝” のように記された書を夢中に読み かつての牧師さんの説教より遥かに得心しました。

 キリスト教を迫害するならず者であったパウロが どう回心し信仰を深めて行ったのか。イエスの “復活” を目にしたパウロの生々しい驚きは、遠藤周作自身の生々しい驚きでもあったと思います。それから四十数年たった今も私の心の中をざわざわと…キリスト教が騒ぎます。

 数年前、京都コンサートホールで「メサイア」公演があった際、早目に出かけ かつて下宿したあたりを歩きました。歩きながら、日曜礼拝に訪れた教会が昔のまま其処にあることに少し心が震えました。その夜のメサイア公演は いつになくこころ湧き立つものがありました。

 
     初めて日曜礼拝に訪れた京都下鴨のA教会…でも昔はこんな無骨な電線はありませんでした。

    白鳥英美子さんの澄明なアカペラで "Amazing Grace" を!
 

   【 NHK-ETV「こころの時代~宗教・人生~」】
      遠藤周作没後25年 遺作「深い河」をたどる
      <前篇>11/6(土) 13:00~14:00 <後篇>11/7(日) 5:00~6:00
      ※ 前後篇の放送時間がテレコでしたので上記のとおり訂正します。申し訳ございません。 


  

【過去ログ目次一覧】
吾輩も猫である~40 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/58089c94db4126a1a491cd041749d5d4
吾輩も猫である~80 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/dce7073c79b759aa9bc0707e4cf68e12
吾輩も猫である81~140 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/f9672339825ecefa5d005066d046646f
吾輩も猫である141~ http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/b7b2d192a4131e73906057aa293895ef
人生の棚卸し http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/ddab58eb8da23a114e2001749326f1f1
人生の棚卸し(2) https://blog.goo.ne.jp/00003193/e/22b3ffae8d0b390afee667c0e9ed92ed
かんわきゅうだい(57~) http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/20297d22fcd28bacdddc1cf81778d34b
かんわきゅうだい(~56) http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/a0b140d3616d89f2b5ea42346a7d80f0
閑話休題 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/c859a3480d132510c809d930cb326dfb
腎がんのメモリー http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/bee90bf51656b2d38e95ee9c0a8dd9d2
旅行記 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/23d5db550b4853853d7e1a59dbea4b8e
新聞・TV・映画etc. http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/a7126ea61f3deb897e01ced6b3955ace
ごあいさつ http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/7de1dfba556d627571b3a76d739e5d8c
名残の季節 https://blog.goo.ne.jp/00003193/e/ce82e1c580f64c8ab8d43e2c674a481d



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