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Channel: デ某の「ひょっこりポンポン山」
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大林宣彦さん「最期の講義」… 花筐/HANAGATAMI

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 今朝 ふっとモッコウバラ が咲いているのに気がつきました。その隣のブルーベリーに白い小さな花が咲いたのは少し前に気づいていたのに…不思議です。植えるのも手入れするのも妻だからでしょうかねぇ。庭が明るくなってなんだか少しトクしたような気分です。

 小さな庭ですから一斉に花々が咲きはじめると庭全体がまるで一つの花かご… 花筐(はながたみ)に見えます。広いお屋敷の静かな庭も心を和ませましょうが、こうした花かごの庭が私にはふさわしく しっくりきます、負け惜しみではありませんけどね(負け惜しみ!)。


               白く小さなブルーベリー(左) と明るく賑やかなモッコウバラ

 去る10日、大林信彦さん(映像作家 82歳)が旅立たれました。しばらく前に放送された大林さんの「最後の講義」思い出し、もう一度聴きたいなぁ と思っていましたら 16日に再放送されました。言葉一つ一つが 表情と仕草も含め 改めてしみじみ心にとどきました。

 「最後の講義」は、『もし今日が人生最後の日なら何を伝えたいか』というアメリカの大学で始まったムーブメントをNHKが番組化したものです。大林宣彦さんはシリーズ第二弾として一昨年3月に講義をされ、今回は大林さんへの追悼として再放送されました。


                      番組収録は2017.12.20 早稲田大学にて

 講義は、肺がんステージ4で「余命3か月」を告げられ1年7か月が過ぎた2017年暮。「映画を志す若い人達に思いを伝えたい」との大林さんの希望で「早稲田映画まつり」の一環として早大教室で行われました。大林さんの遺言と言うべき「最期」の講義です。

 「あなた方にとって戦争は過去のものではありません。明日にでも戦争になるかもしれません。あなた方はいま戦前を生きている人達なのです」。戦争が終わったとき7歳だった大林さん。若い人達に「フィロソフィーとしての映画」について語り始めました。


                 大林さんの講義を聴く学生達の眼差しも印象的でした。

 僕が80歳でまだ現役として映画が撮れているのは、古い映画をたくさん観てきたからだと思う。1960年代までに上映された世界中の映画で観れるものは僕は総て観てきた。それによって自分の中に「映画とは何かというフィロソフィー」が育まれてきたと思う。

 小津安二郎さんが撮った映画「東京物語」「彼岸花」。戦争とは縁がない映画監督だと言われている。確かに戦闘のシーンはない。戦時下の暮らしも一つも撮らない。小津さんが撮ったのは、日々豊かになる途上の戦後日本の市井の人々の暮らしばかりだった。



 映画をカットに分けて撮る場合、右の人は左を向いて、左の人は右を向いて撮る。そうしたカット撮りによって観客は頭の中に二人が視線を合わせる場面を作りだす。そんな基本のテクニックに小津さんは敢えて逆らい登場人物に視線を合わさせようとしない。

 映画「彼岸花」には、老夫婦が旅先で人生を振り返るシーンがある。『私ね、ふっとあの頃が懐かしくなるの。戦争は厭だったけど、あんなに親子四人が一つになったことなかったもの』。戦争が終わり平和な時代を迎えてなお「あの頃が懐かしくなる」と。


                   映画「彼岸花」(1958年) 田中絹代と佐分利信

 映画「東京物語」で小津監督は何を言おうとしたのか。都会に出て家庭をもち、母親の葬式で家に帰ってきた子ども達が過ごす数日。最早ともに暮らすことのない核家族。各々視線を合わすこともない家族の中に 妻を亡くしぽつんと一人残された父親が、いる。

 映画「彼岸花」で『あの頃が懐かしくなる』と語るあの頃とは どんな時代だったのか。戦争が日常の日々、空襲から逃げ惑い人々が大勢死ぬ日々、戦争が終わり子ども達をどう食べさせるか心痛む日々。それでもなお笑顔で「あの頃が懐かしくなる」と語る日々。

 小津監督は「今、あなた方は幸せですか?」と。戦争があり、死と背中合わせ、食べるものもろくにない貧しさの中、家族はみな一緒に暮らし、心を一つに寄せ合って懸命に生きていた。今、あなた方は、あなた方の家族は、本当に幸せになったんですか?と。


                         敗戦直後の大林さんとお母さま

 敗戦。大林さんは初めて母親と一緒にお風呂に入ります。風呂から出ると座布団が二枚敷かれ、その間に短刀が一振り。明日もし進駐軍がこの家に押し入るなら…と。大林さんはホッとしたそうです。お母ちゃんが殺してくれるんなら痛くないように死ねる、と。

 最期の講義の最後に映画を志す若い人達に「戦争という狂気に人間として対峙するには正気しかありません」「売るための映画は一度たりとも作るまい。映画を作るにたるフイロソフィーを」。そして大林宣彦さんが遺した最期の映画は「花筐/HANAGATAMI」。

   青春が戦争の消耗品だなんてまっぴらだ! 檀一雄原作 映画「花筐/HANAGATAMI」予告編



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吾輩も猫である~40 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/58089c94db4126a1a491cd041749d5d4
吾輩も猫である~80 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/dce7073c79b759aa9bc0707e4cf68e12
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人生の棚卸し http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/ddab58eb8da23a114e2001749326f1f1
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腎がんのメモリー http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/bee90bf51656b2d38e95ee9c0a8dd9d2
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