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Channel: デ某の「ひょっこりポンポン山」
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一つの衝撃 一つの感動

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                      散りそめし桜の無数の花びらのあはれ・・・。

 文学部で女子大生が男子を上まわると「女子大生亡国論」なるものが現れました。それは私が未だ幼かった頃ですが、私の学生時代にもその言葉はなお存在しました。その後も女子学生は増えつづけ、殆ど総ての学部、大学院で女子学生は増え続けています。

 人事(採用)に関わると、女子は男子より圧倒的に成績優秀であることが判ります。昇進に関してはポジティブアクション(女性優先枠)という考え方があります。とは言え、いずれ「男性優先枠」が必要になるほど女性が主要な職務、地位を占めるでしょう。

 が、現実は未だそこに至りません。至らないどころか、相も変わらず女性が締め出されているのが「学問研究」の職場ようです。新聞で大きく取り上げられた一つの衝撃的な死と、社会の耳目を集める東大の学生に送られた一つの感動的な祝辞を紹介します。


                      4/18付 朝日新聞朝刊第一面より
                                       
 3年前の2月、43歳の女性が自死しました。私の息子と殆ど変らない年齢です。江戸中期の仏教研究で「殆ど独壇場と言って良い成果を続々と挙げていた」研究者でしたが、研究職に就こうと20以上の大学に応募しても、ろくに顧みられず不採用ばかり。

 経済的に困窮し、自死する2年前「非常口を開ける」とネットで知り合った男性と結婚します。結婚生活は半年後に破綻し、自らを責め心を病みます。日記には「もし問題が奇跡的に解決したら、どうなってるか? ばりばり研究していると思う」と記します。

 紆余曲折を経て離婚届を市役所に提出した2016年2月2日、その日の夜に彼女は自死します。死の少し前の日記には「本当は生きたい。でもどうやって?」と。研究職の口がないのは男性も同様の状況があるとはいえ、女性には一層過酷な現実があります。

 愚息も大学の研究職を目指したものの、余りに狭くて遠い門に断念し「研究は続けられる」と製薬の研究職に就きました。が、研究費は乏しく「やりたいことがやれない」と三十代半ばに医学部に入り直し、妻子をかかえ数年間、無収入の日々を送りました。

 自死された方は西村玲さん。朝日新聞4/18朝刊第一面と社会面で報じられました。運命が一つズレれば愚息も自死に至ったかも知れません。3年前の出来事ながら、朝日新聞が第一面に報じたことの意味を身辺に置き換えつつ深く考える衝撃の記事でした。


                      4/18付 朝日新聞朝刊社会面より

 上野千鶴子さん。私と同世代です。学生時代、京都の何処かですれちがっていたかもしれません。全共闘の活動家であった由。当時、全共闘は「大学解体」を声高に唱えましたが、その割に退学した者は殆どいません。上野さんもキチンと?卒業されています。

 当然のこと?ながら吉本隆明に心酔されたようです。が、拙ブログ※で以前ご紹介したように、後に吉本隆明の本質を鋭く衝く論評をされています(※「吾輩も猫である83」)

 『自分が大衆の代弁者だ』と思い始めた吉本に上野さんは「彼の妄想であり彼の足を引っ張った」「その頃から吉本に関心を失った」と。また吉本の原発容認についても「彼は天邪鬼だと言うこともあるし、科学信奉主義者ですね。失敗を繰返しながら科学技術は進歩して行くんだ、と。そちら(反!反核)側に立つと予想していたらその通りだった」と語っています(NHK:Eテレ「戦後史証言プロジェクト」より)。

 私が上野千鶴子さんを(不遜ながら)見直したのも前記の吉本隆明について語った頃でした。それまで彼女の言うこと、書くことは「時代の脚光を浴びようとするスタンドプレイでありポピュリズム(大衆迎合)」だと思っていましたから、かなり見方が変りました。

 今回、東大の入学式で上野さんが送った祝辞は、全文をお読みいただければその凄さに感動!されるにちがいありません。長文ですが、東大に入学した学生のつもりになって、あるいは女子大生になった(戻った)つもりでお読みいただければ幸いに思います。

 とは言うものの、ほんの一部ご紹介します。ほんの一部が結構!長いのですが・・・。

 これまであなた達が過ごしてきた学校は、タテマエ平等の社会でした。偏差値競争に男女別はありません。ですが、大学に入る時点ですでに隠れた性差別が始まっています。社会に出れば、もっとあからさまな性差別が横行しています。東京大学もまた、残念ながらその例の一つです。

 私が学生だった頃、女性学という学問はこの世にありませんでした。なかったから、作りました。女性学は大学の外で生まれて、大学の中に参入しました。4半世紀前、私が東京大学に赴任した時、私は文学部で3人目の女性教員でした。
 今日東京大学では、主婦の研究でも、少女マンガの研究でもセクシュアリティの研究でも学位がとれますが、それは私達が新しい分野に取り組んで、闘ってきたからです。そして私を突き動かしてきたのは、あくことなき好奇心と、社会の不公正に対する怒りでした。

 あなた達は頑張れば報われる、と思ってここまで来たはずです。ですが、頑張っても公正に報われない社会があなた達を待っています。そして頑張ったら報われるとあなた達が思えることそのものが、あなた達の努力の成果ではなく、環境のお蔭だったことを忘れないでください。周囲の環境が、あなた達を励まし背を押し手を持って引き上げ、やり遂げたことを評価し褒めてくれたからこそです。

 世の中には、頑張っても報われない人、頑張ろうにも頑張れない人、頑張りすぎて心と体を壊した人達がいます。頑張る前から「所詮お前なんか」「どうせ私なんて」と頑張る意欲を挫かれる人達もいます。
 あなた達の頑張りを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれない人々を貶めるためにではなく、そういう人々を助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください。

 フェミニズムはけっして女も男のように振る舞いたいとか、弱者が強者になりたいという思想ではありません。フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です。

 あなた方を待ち受けているのは、これまでのセオリーが当てはまらない、予測不可能な未知の世界です。これまであなた方は正解のある知を求めてきました。これからあなた方を待っているのは、正解のない問いに満ちた世界です。

 未知を求めて、よその世界にも飛び出してください。異文化を怖れる必要はありません。人間が生きているところでなら、どこでも生きていけます。あなた方には、東大ブランドがまったく通用しない世界でも、どんな環境でもどんな世界でもたとえ難民になってでも、生きていける知を身につけてもらいたい。大学で学ぶ価値とは、すでにある知を身につけることではなく、これまで誰も見たことのない知を生み出すための知を身に付けることだと、私は確信しています。 


               上野千鶴子さん・・・東京大学入学式にて(ネットより拝借)

 東京大学入学式における上野千鶴子名誉教授「祝辞」(全文)
 https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/president/b_message31_03.html


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