Quantcast
Channel: デ某の「ひょっこりポンポン山」
Viewing all articles
Browse latest Browse all 587

ひとり朽ちる ... がんに生きる

$
0
0
 ブログを始めて2千日が過ぎました。その間それなりに親しくお付き合いいただいた5名のブロ友が旅立たれました。旅立たれた方のほかにも、ブログを長く更新されないままの方、いつの間にかコメント欄でお見かけしなくなった方も何人かいらっしゃいます。


                              Painted by QP. 

 今年の雛祭の日に旅立れたFさんとはブログ「風の棲み家」の頃にご縁をいただきました。ブログ記もコメント欄も機知に富みエキサイティングでした。が、突然ブログを閉じられ寂しく思っていましたら、程なくブログ「ひとり朽ちる」を立ち上げられました。

 ハンドルネーム「風の・・・」は「風の棲み家」の名残りでした。バラ作り、押し花、子ども食堂、本の紹介など意欲的なブログでしたが、一昨年初夏に大腸がん、更に肝転移が判明(Stage4)、ブログを「物語を綴る~生きる歓びを拾いながら」と改められました。

 抗がん剤治療に苦しまれ、医師との相性にも苦しまれました。いつも強いお気持ちで病に対峙されましたが、やがて抗がん剤治療を自ら断たれ『死ぬ気満々です』と・・・。そしてブログ名を再び「ひとり朽ちる」に戻されました。烈しい葛藤を想うと心ちぎれます。


                              Painted by QP.

 今月8日、図書館に行きました。その5日前にFさんが旅立たれていたことを私は未だ存じませんでした。書棚でなかにし礼「がんに生きる」に出遭いFさんを思いました。彼の作詞した数々の歌も直木賞作家であることも知っていますが、書は何一つ読んでいません。Fさんに導かれたのでしょうか・・・借りて帰り引き込まれるように読みました。

 なかにし礼さんは食道がん(2012年。2年半後再発)のサバイバーです。『いつ死ぬかわからないのだから』と破れ被れな生活を送っていましたが、がんになり ※『二人の自分』に気づきます。すると『私の中にある様々な物事に変化が起き 時間の流れ方まで変った』と感じ、『生きていることがとても新鮮に感じられるようになった』と記します。
  ※ 二人の自分 ・・・「がんで病床に横たわるボディとしての自分」と「精神的な存在である自分」。

 愛読書は『闘病を経て急に面白く』なり、改めてバルザックにのめりこみます。つまらない本は『より明確につまらなく』なります。ベートーヴェンを聴くと『いいな、と思う部分が以前とまったく違うくらい感じ方が変わって』しまいます。能の舞台では、作者の表現したいことが『ようやくわかった』というほどに見方、感じ方が変わります。



 なかにし礼さんは『がんは理想の死に方』だと記します。身辺も心構えも死への準備を整えられる、と。理想とまで思わずとも、確かに多くのがんに死ぬ少し前まで心身ともに比較的しっかりした時間があります。置かれた状況は各々大きく異なりますが、Fさんは『少しずつ悪くなるのではなくドカンドカンと悪くなる』と記されていました。

 退院したなかにしさんが最初に視た映画が「風立ちぬ」でした。みなさんご存知の「いざ生きめやも」という印象的な一節について彼は『戦争で死なないという意味』ではなく『奮い立つ思いで生きねば、というメッセージ』だと受けとめます。陽子線治療に臨む姿勢にも再発の時の心構えにも「いざ生きめやも」との奮い立つ思いがあふれます。

 再発に際しては※「穿破」という致命的な状況への惧れがあります。幸い「トップナイフ」の外科医に危機を救われ、一年近い抗がん剤治療を経て甦ります。しかし陽子線治療もトップナイフもなかにしさんにして可能でも、最期に際し入院を待たされ「壁をつたい床を這う」ひとり暮らしのFさんには望み得なかったことと思い胸が詰まります。
  ※ 穿破・・・がん細胞が大きくなり膜性壁を破り様々な臓器が機能を停止します(多臓器不全)


                              Painted by QP.

 「がんに生きる」との精神性の底には拭い難い戦争体験が横たわります。満州で敗戦を迎え壮絶な逃避行を余儀なくされたなかにしさんは、軍と人間の汚い本性を限りなく目の当たりにします。ようやく乗り込んだ引揚船では姉から「礼ちゃん、死のうか」と言われ「ああ、いいよ」と応じますが、母親と若い船員に見つかり引き止められます。

 そうした体験から彼は『日本人は過去から学ばないし、どういうわけか学ばないことを善しとするところすらある』と嘆きます。戦前、朝日新聞は戦争を賛美し国民を欺いたことを猛省する社説を掲げ、そこから朝日新聞の戦後が始まった、と記し『ろくに学んでいない他の新聞社が、朝日新聞をとやかく言う資格はあるはずがない』と断じる。

 慰安婦問題についても「それを証明する資料が存在しない」とし、朝日新聞を叩く人がいる。が、敗戦時に軍が膨大な資料を焼却する場面を、また白昼泣き叫びながら強制的に連行される女性たちを『私はしっかりと見ている』と記す。それを「なかったことに」し反省も贖罪もしない現在に至る風潮に、大陸の生き証人として彼は異を唱える。

 『がんは自分を成長させてくれたと思っている』との彼の言葉は、そっくり私の思いでもあります。自ら望んだことではありませんが、本心からそう思います。映画「生きる」で志村喬演じるがんで余命幾許もない市役所職員が、最期の仕事として公園を整備しブランコに揺られて歌う「いのち短かし恋せよ乙女」の心境にもこころ通じます。

 「がんに生きる」は夏目漱石「吾輩は猫である」より『凡て人間の研究というものは自己を研究するのである』の一節(第9章)を引用して締め括られています。私は様々な思いをこめこのブログ記を「Auld Lang Syne(蛍の光)」を以て締め括りたいと存じます。




 にほんブログ村 ライフスタイルブログ 60代 自分らしさへにほんブログ村   


【過去ログ目次一覧】
吾輩も猫である~40 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/58089c94db4126a1a491cd041749d5d4
吾輩も猫である~80 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/dce7073c79b759aa9bc0707e4cf68e12
吾輩も猫である81~140 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/f9672339825ecefa5d005066d046646f
吾輩も猫である141~ http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/b7b2d192a4131e73906057aa293895ef
人生の棚卸し http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/ddab58eb8da23a114e2001749326f1f1
かんわきゅうだい(57~) http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/20297d22fcd28bacdddc1cf81778d34b
かんわきゅうだい(~56) http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/a0b140d3616d89f2b5ea42346a7d80f0
閑話休題 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/c859a3480d132510c809d930cb326dfb
腎がんのメモリー http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/bee90bf51656b2d38e95ee9c0a8dd9d2
旅行記 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/23d5db550b4853853d7e1a59dbea4b8e
新聞・TV・映画etc. http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/a7126ea61f3deb897e01ced6b3955ace
ごあいさつ http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/7de1dfba556d627571b3a76d739e5d8c

Viewing all articles
Browse latest Browse all 587

Trending Articles