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最後の講義・・・福岡伸一さん(生物学者)

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 「最後の講義」ときけば、「えっ! ご病気か何か?」と思ってしまいます。しかしこれは米国の大学で始まったムーブメントにならった番組企画「もしあなたが人生最後の講義に臨むとすれば何を語りますか?」。各界をリードする方々が学生たちに講義します。
 ※ かなり長文になりますけど、どうか最後まで・・・損はさせま・・・させるかも・・・



 私の子ども時代は「コイン(古銭収集)少年」。母の実家の土蔵に寛永通寶など古銭の輪(一輪に数百枚)が数十本あり、祖母にねだっては古銭を一枚、二枚・・・時にカゴいっぱい失敬しました。これを天保銭や一朱銀などと交換、今なら鑑定団に出せるほど!でした。

 腎がん友のSさんは昆虫少年だった由。この夏、厳しい病状にあって伊丹市(兵庫県)の昆虫館を子どものように胸躍らせながら訪ねるブログをUPされました。Sさんがその後どのように歩まれたかは特に記しませんが、そのワク!ワク!感は今も健在でした。



 さてここでご紹介する福岡伸一さんも昆虫少年。虫の標本作りに夢中で友達はゼロ、「友達と遊ぶぐらいなら虫と遊ぶ」少年だったそうです。大学は理学部に入り生物学を専攻、やがて固体としての生物ではなく細胞やDNAすなわち分子生物学に進みました。

 「生命とは何か?」を講義するにあたり、福岡さんはまず顕微鏡の話から始めました。顕微鏡を発明したレーエンフック(1632~1723年、オランダ)の顕微鏡は3百倍という精巧なもので、それまで眼に見えなかった細胞、血球、精子などが判るようになりました。

 レーエンフックは学者ではなくごく普通の人だったと知り「自分にも何か発見できる」と思ったそうです。この純粋な好奇心、好奇心が育む夢、何より「自分にもできる」という確信(たとえ「思い込み」でも!)は、偉大な研究者を生む三大要素かもしれません。


     昆虫少年時代の福岡伸一さん      レーエンフックが顕微鏡を見て描いたもの 

 自然界の昆虫さがしから体内の虫!さがしへ。その福岡さんの最初の大発見は「GP2」遺伝子でした。GP2の欠けたマウスを無数に作り片っ端から異変!をさがします。異変があれば、それこそがGP2の役割であり、がんなど遺伝子変異の源かもしれないのですから・・・。

 ポルシェ3台分を投じ3年かけても異変は何ひとつ見つかりません。研究というものは「99.99…%が失敗」の典型です。意気消沈の福岡さんの目にとまったのがルドルフ・シェーンハイマー(1898~1941年)の言葉『生命は機械ではない。生命は流れだ』でした。

 生物学は生命を機械に見立てて発展しました。人体の遺伝子を総!解読する「ヒトゲノム」計画はその象徴でした。しかし登場人物はわかっても肝腎の内容(ストーリー)はわかりません。福岡さんが発見したGP2の役割がそう簡単に解明されなかったように・・・。


  スクリーン(上右)に福岡さんらが作った「GP2遺伝子」のない!マウス。異変は起きなかった。

 人は日々食べて排泄し生命を維持します、自動車がガソリンを燃やし熱エネルギーにかえて走るように。では排泄されるウンチは何なのでしょう? 調べると、食べたものの残りカスではないこと、そして人体は時々刻々!別のものに変わることがわかりました。

 実は食べたものの大半は身体の各部分に送られて新しい細胞となり、各部分で老廃した細胞が排泄されウンチとなります。すなわち人体は食べることで刻々と新しく生まれかわることがわかりました。すなわち人体は固体ではなく流体であることがわかりました。

 髪や爪が伸びるのはわかりやすい例ですが、皮膚も臓器も刻々入れ替わります。ではなぜ「記憶」は変わらないのでしょう? それは脳のニューロン(神経細胞)に物質としてではなく回路網!として記憶が保存されるからだそうです。少し難しくなりました(笑)
  ※ 完璧にはリニューアルされず少しずつ老廃物が蓄積され(老化し)やがて生命はなくなる。

【インターミッション】バルト三国の旅で知り合った方の海外最後の旅(百か国目!)アイスランドから届いた絵葉書です。オーロラのほか日に5回も虹が上がるそうで。



 絶え間なく入れ替わるその流れの中で、人体では合成と分解がうまくバランスをとっています。これを福岡さんは「動的平衡」と呼びます。思い起こす方もいらっしゃるでしょう。はい、※「エントロピー増大の法則」または「形あるものは壊れる」との諺です。
  ※ 秩序があるもの(整然とした形があるもの)は秩序がない(壊れる)方向にしか動かない。

 生命はこのエントロピー増大の法則に抗います。言わば自らを壊して(分解して)長い時間 秩序を守っています。何かが欠けると全体でそれを補い平衡(バランス)をとっています。GP2遺伝子が欠けても異変が起きないのは、そうした動的平衡によるワザです。

 人為的にその秩序に刃向えばどうなるでしょう。英国で、草食動物の牛に乳の出を安上がりに増やそうと死んだ動物の肉骨粉をエサに与えました。これが原因で狂牛病に罹り、その肉や乳を食した人間はヤコブ病に罹りました。生命の根源に逆らった罰でした。



 生命とは何か・・・。人間には37兆個の細胞があり、心臓が止まっても細胞は生きています。「死」の認定は ①心臓停止、②呼吸停止、③瞳孔反射消失の三要素をもって為されてきました。しかし臓器移植では(「生」の時間を縮める)「脳死」で死と判定されます。

 福岡さんは「脳死があるなら脳始!もあり得る」「脳がまだ始まっていない胎児は生きている命ではないことになる」と。すなわち「脳始!前」の胎児の臓器などが移植医療に利用されるおそれがあると・・・。なんだか背筋も心もフリーズしそうになりました。

 「標準医療」という言葉をご存知でしょうか? 厚労省によりエビデンス(医学的根拠)があると認められた手術、投薬などの医療を意味します。「標準」医療とは、「平均的、一般的」医療であり、患者一人一人の個別性(個々の症状)はそこから排除されます。

 国公立の病院や大きな病院はこの標準治療にこだわり、患者の希望・要望としばしば対立します。逆に規模の小さな民間病院の中には健保にしばられない「自費診療」とした上で、怪しげな(エビデンスの希薄な)民間療法に患者を誘いしばしば問題になります。



 少し横道に逸れました。さてさて「動的平衡」とは・・・。福岡さんは、ノーベル物理学賞を受賞された朝永振一郎さんの言葉を引用されました。

 『物理学の自然とは、自然をたわめた不自然なつくりものだ。一度このつくりものを通って、それからまた自然に戻るのが学問の本質そのものだ』『活動写真で運動を見る方法はそのまま学問の方法になる。無限の連続を有限の1コマ1コマに片づけてしまう。そして画家はもっと他の方法で運動を表わす』。



 難解なこの言葉を福岡さんはフェルメールの絵「真珠の首飾りの少女」で説き明かします。この絵には振り向きざまの少女の表情が描かれている。しかしよく見ると、その一瞬に至る短い時間と、一瞬に続く短い時間も描かれている。これぞ動的平衡だ、と。

  さらに福岡さんは朝永さんの言葉をパロって「機械的な生命観は生命をたわめたつくりものだ」「一度このつくりものを通って動的平衡な生命観に戻るのが学問の本質だ」。デ某的解釈としては「動的平衡とは弁証法的唯物論そのもの」ですけどねぇ(笑)



 講義を聴いた学生の感想が Nice! でした。『これからの時代ってAIとかPCの発達によって機械的に物事を考える人が増えて行くと思う。その中で、動的平衡の感覚を常に忘れないでいることが、すごく大事なことだと考えました』。私も!任せま~す!


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