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Channel: デ某の「ひょっこりポンポン山」
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かんわきゅうだい 49(風天の句)

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 映画「男はつらいよ」は、私が学生だった頃の第1作~第48作まで映画館の「封切」で観ました。寅さんとともに青春を送り、中年に達し、いま寅さん(渥美清さん)が逝った歳になり、俳号「風天」として遺された句について思うまま・・・ここに記します。

 

 お遍路が一列に行く虹の中
 旧い松竹の映画、あるいは30年ほど前にNHKで放映された「花へんろ」(作:早坂暁)の1シーンを見るような一句です。お遍路ではありませんが、数年前、琵琶湖一周ウォークに挑戦していた頃、長浜あたりで見た大きな虹の橋を思い出させてくれました。

 蓋あけたような天で九月かな
 そう思うような天(空)・・・確かにありますね。「男はつらいよ」の山田洋次監督は、碧空の下で撮影に入るとき、「きょうは良いお天気ですねぇ」と嬉しそうに空を見上げるのだそうです。この句を詠んだ時の渥美清さん、きっと体調が良かったのでしょうね。

 コスモスひょろり ふたおや もういない
 渥美さん45歳の句です。ふた親を亡くされたのはもっと若い頃だったような気がします。可憐!と言えば可憐なコスモスですが、風に揺れるコスモスのように細く痩せ、病弱なご両親だったのでしょうか。拗ねたような「もういない」も印象的です。

 

 渥美さんは「見てのとおりの容姿なのに小さい頃から女のひとにもてた。いつも周りに女のひとをひきつれていた」由。小さい頃から寅さんそっくりの渥美さんだったようですが、女性について詠んだ句はどこか秘めやかでセクシィでもあります。

 うつり香の ひみつ知ってる 春の闇
 浅草フランス座時代の渥美さん。ひときわ濃い化粧の香り、派手な衣装に隠された素の肢体・・・。座のストリッパーたちの秘めた逢瀬をはじめ、男と女のそれはそれは妖しい絡み、熟した果物のような光景を、たくさん垣間見られたにちがいありません。

 冬の河をとこをんなに手もふれず  汗濡れし乳房覗かせ手渡すラムネ
「をとこ」とは渥美さんご自身でしょうか。「職場恋愛厳禁」だったのかもしれません。寒い冬の夜、それでなくとも肩寄せて歩きたいでしょうに、手も触れず。座では男は脇役、蒸し暑い楽屋で立ち働く男に差し出されるラムネの先に濡れた女の乳房。

 やわらかく浴衣着る女のび熱かな
 黒田清輝の画「湖畔」のような浴衣姿の女性ではありません。結核を患い入院生活が長かった渥美さんゆえ、この句は結核病棟のベッドの女性でありましょう。今夏亡くなった私の叔母も若い頃、サナトリウムにいました。渥美さんの優しさを思いました。

 他にも「毛皮着て靴ふるき洟水(はなみず)の女」「マスクのガーゼずれた女や酉の市」。いずれも渥美さんのホームグランド、浅草の光景でしょうか。「花冷えや我が内と外に君が居て」という創造力(あるいは妄想力?)をかき立てさせる句もあります。

 

 生きものを詠んだ句がたくさんあります。「躍動する生命感」と言った風ではありません。生きる辛さ、息絶える辛さ哀しさが描かれています。人生にもそんな瞬間、そんな絶望の時期があると思います。でも負けていない凄みが渥美さんの句にはあります。

 台所誰も居なくてアサリ泣く
「虚をつかれる」という慣用句があります。この句にはまさに虚を衝かれます。しんと静まり返った台所で水に漬けられ、まさに「泣く」ように呼吸するアサリ。ぐっと迫られ微かに胸が痛みます。アサリに渥美さんご自身を見たのではありますまいが・・・。

 鮎塩盛ったまま固くすね
 生きの良い鮎にこってり塩を盛って焼く。刺した棒に身をよじるように半身くねらす。如何にも無念の表情でギザギザの歯を剥き睨む。「固くすね」とされていますが、私には「拗ねる」以上に「睨み恨む」鮎に思われ、思わず少し引きました。

 いま暗殺されて鍋だけくつくつ 
「屠殺」ではなく「暗殺」。どちらに凄みを感じるかは各々の感性・個性でありましょう。「くつくつ」に殺人者の胸の響きを覚えます。その光景が眼前にあろうと、闇の中で進められようと、人はみなそのように屠られた命をいただいて生きています。

 他に「ポトリと言ったような気がする毛虫かな」「蓑虫こともなげにいきてるふう」「げじげじにもあるうぬぼれ生きること」。そして「雨蛙木々の涙を仰ぎ見る」。木々に滴る涙雨は天(あめ)の恵みかもしれません。大地も人も癒す天であり雨であり・・・。

 

 最後に無用なコメントを加えず 風天の句 三句を添えます。

    赤とんぼ じっとしたまま 明日どうする
    どんぐりの ポトリと落ちて 帰るかな
    花道に降りて春雨や 音もなく



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