朝日新聞1/8付朝刊で外岡秀俊の訃報を知りました。
彼は東大在学中に「北帰行」で文芸賞を受賞しました。小説の道には進まず朝日新聞に入り欧州総局長・論説委員・編集局長などをつとめ、退職後は朝日新聞の北海道版コラム「道しるべ」を執筆していた由。心不全で亡くなったのは昨年12月23日、死から2週間余も経って… の訃報でした。
外岡秀俊を語るには… 柴田翔を語らなければなりません。
柴田翔「されどわれらが日々」は、60年安保を背景とした青春と挫折が描かれ、1964年の芥川賞受賞により広く注目され ました。"団塊世代のバイブル" とも言われ、全共闘運動への幻滅から盛り上がりを欠いた70年安保以降にもなお影響を与えつづけました、勿論!良い影響かどうかは兎も角…。
私は "やや遅れて影響を受けた" ひとりながら柴田翔四部作と言われる「されどわれらが日々」「立ち盡す明日」「贈る言葉」「鳥の影」を夢中になって読み、更に社会に出た年に発表された「われら戦友たち」を読みました。が、それっきり柴田翔の作品を読むのはやめました、もう いい!と。
柴田翔「されどわれらが日々」の最後には微かに "旅立ち" "希望" がありました。しかしその後の作品は総て内に籠り希望を棄てた世界でした。"虚無" は 力を喪くした者が再び力を矯める時間なのだと私は思いますが、柴田翔の世界は 力を喪くしたことを糊塗し美化している…とさえ思いました。
そうした時に出会った書が外岡秀俊の1976年文芸賞受賞作「北帰行」。主人公は、北海道の炭鉱で育ち東京に就職しますが、職場の諍いから失業。石川啄木に惹かれ北国への漂泊の旅に出… 郷里に帰り着いた青年は、母に託された友の手紙から "破裂しそうな" 友のために再び上京を決意します。
『母ちゃんをおいて行くのかい』と縋る母に『きっと帰る。俺はきっと帰るよ』。ともすれば揶揄される "健全な魂" "健全な意思" でしょうか。柴田翔「されどわれらが日々」の虚無に馴れた感覚にはダサクてカッコ悪く思われますが、体裁!を気にしなければ 地に足のついた感触があります。
1976年 … 半世紀近い昔に購入した書の やや擦り切れカヴァーと帯です。
外岡秀俊は小説家としては「北帰行」で終わった!と思っていました。が、中原清一郎の筆名で小説「未だ王化に染(したが)はず」(小学館)「カノン」(河出書房)を著しています。「カノン」は数年前、中原清一郎が外岡秀俊と知らずに妻が購入し『書棚にあります』と。合掌のうえ… 読もうと思います。
なお 柴田翔は東大教授、文学部長となり… ドイツ文学者として多数の論文・書を著しています。もう小説は書かないのか…と思っていたら、数年前に長編小説「地蔵千年、花百年」を発表しました。読む気はありません。残りの人生の無駄だと思います。以下は… 柴田翔が1984年に記した一文です。
ゲバルトは国家の暴力装置に対抗するための対抗暴力として出てきたと理解していた。対抗暴力であってもゲバルトには反対だったけど、現象としてはそう理解していた。ところが大学の教師である自分の目の前で学生達がゲバ棒を振り廻すのを見ているうちに、そういう側面もあるけれども それはタテマエと判ってきた。連中はゲバ棒を持ちたいから持っているんだ、ゲバ棒を振り廻すこと自体によろこびを感じているんだという気がした。良い悪いの問題以前に、まさに現実としてそうだということが見えてきた。戦後民主主義が前提にしていた人間観の中には、それが含まれていなかった。人間は本来理性的動物であって、暴力衝動などは人間観の外へ追いやられていた。(「全共闘ーそれは何だったのか」現代の理論社)
外岡秀俊「北帰行」とは異なる世界ながら… 加藤登紀子の歌う「北帰行」を。
【過去ログ目次一覧】
吾輩も猫である~40 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/58089c94db4126a1a491cd041749d5d4
吾輩も猫である~80 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/dce7073c79b759aa9bc0707e4cf68e12
吾輩も猫である81~140 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/f9672339825ecefa5d005066d046646f
吾輩も猫である141~ http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/b7b2d192a4131e73906057aa293895ef
人生の棚卸し http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/ddab58eb8da23a114e2001749326f1f1
人生の棚卸し(2) https://blog.goo.ne.jp/00003193/e/22b3ffae8d0b390afee667c0e9ed92ed
かんわきゅうだい(57~) http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/20297d22fcd28bacdddc1cf81778d34b
かんわきゅうだい(~56) http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/a0b140d3616d89f2b5ea42346a7d80f0
閑話休題 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/c859a3480d132510c809d930cb326dfb
腎がんのメモリー http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/bee90bf51656b2d38e95ee9c0a8dd9d2
旅行記 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/23d5db550b4853853d7e1a59dbea4b8e
新聞・TV・映画etc. http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/a7126ea61f3deb897e01ced6b3955ace
ごあいさつ http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/7de1dfba556d627571b3a76d739e5d8c
名残の季節 https://blog.goo.ne.jp/00003193/e/ce82e1c580f64c8ab8d43e2c674a481d
彼は東大在学中に「北帰行」で文芸賞を受賞しました。小説の道には進まず朝日新聞に入り欧州総局長・論説委員・編集局長などをつとめ、退職後は朝日新聞の北海道版コラム「道しるべ」を執筆していた由。心不全で亡くなったのは昨年12月23日、死から2週間余も経って… の訃報でした。
外岡秀俊を語るには… 柴田翔を語らなければなりません。
柴田翔「されどわれらが日々」は、60年安保を背景とした青春と挫折が描かれ、1964年の芥川賞受賞により広く注目され ました。"団塊世代のバイブル" とも言われ、全共闘運動への幻滅から盛り上がりを欠いた70年安保以降にもなお影響を与えつづけました、勿論!良い影響かどうかは兎も角…。
私は "やや遅れて影響を受けた" ひとりながら柴田翔四部作と言われる「されどわれらが日々」「立ち盡す明日」「贈る言葉」「鳥の影」を夢中になって読み、更に社会に出た年に発表された「われら戦友たち」を読みました。が、それっきり柴田翔の作品を読むのはやめました、もう いい!と。
柴田翔「されどわれらが日々」の最後には微かに "旅立ち" "希望" がありました。しかしその後の作品は総て内に籠り希望を棄てた世界でした。"虚無" は 力を喪くした者が再び力を矯める時間なのだと私は思いますが、柴田翔の世界は 力を喪くしたことを糊塗し美化している…とさえ思いました。
そうした時に出会った書が外岡秀俊の1976年文芸賞受賞作「北帰行」。主人公は、北海道の炭鉱で育ち東京に就職しますが、職場の諍いから失業。石川啄木に惹かれ北国への漂泊の旅に出… 郷里に帰り着いた青年は、母に託された友の手紙から "破裂しそうな" 友のために再び上京を決意します。
『母ちゃんをおいて行くのかい』と縋る母に『きっと帰る。俺はきっと帰るよ』。ともすれば揶揄される "健全な魂" "健全な意思" でしょうか。柴田翔「されどわれらが日々」の虚無に馴れた感覚にはダサクてカッコ悪く思われますが、体裁!を気にしなければ 地に足のついた感触があります。
1976年 … 半世紀近い昔に購入した書の やや擦り切れカヴァーと帯です。
外岡秀俊は小説家としては「北帰行」で終わった!と思っていました。が、中原清一郎の筆名で小説「未だ王化に染(したが)はず」(小学館)「カノン」(河出書房)を著しています。「カノン」は数年前、中原清一郎が外岡秀俊と知らずに妻が購入し『書棚にあります』と。合掌のうえ… 読もうと思います。
なお 柴田翔は東大教授、文学部長となり… ドイツ文学者として多数の論文・書を著しています。もう小説は書かないのか…と思っていたら、数年前に長編小説「地蔵千年、花百年」を発表しました。読む気はありません。残りの人生の無駄だと思います。以下は… 柴田翔が1984年に記した一文です。
ゲバルトは国家の暴力装置に対抗するための対抗暴力として出てきたと理解していた。対抗暴力であってもゲバルトには反対だったけど、現象としてはそう理解していた。ところが大学の教師である自分の目の前で学生達がゲバ棒を振り廻すのを見ているうちに、そういう側面もあるけれども それはタテマエと判ってきた。連中はゲバ棒を持ちたいから持っているんだ、ゲバ棒を振り廻すこと自体によろこびを感じているんだという気がした。良い悪いの問題以前に、まさに現実としてそうだということが見えてきた。戦後民主主義が前提にしていた人間観の中には、それが含まれていなかった。人間は本来理性的動物であって、暴力衝動などは人間観の外へ追いやられていた。(「全共闘ーそれは何だったのか」現代の理論社)
外岡秀俊「北帰行」とは異なる世界ながら… 加藤登紀子の歌う「北帰行」を。
【過去ログ目次一覧】
吾輩も猫である~40 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/58089c94db4126a1a491cd041749d5d4
吾輩も猫である~80 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/dce7073c79b759aa9bc0707e4cf68e12
吾輩も猫である81~140 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/f9672339825ecefa5d005066d046646f
吾輩も猫である141~ http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/b7b2d192a4131e73906057aa293895ef
人生の棚卸し http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/ddab58eb8da23a114e2001749326f1f1
人生の棚卸し(2) https://blog.goo.ne.jp/00003193/e/22b3ffae8d0b390afee667c0e9ed92ed
かんわきゅうだい(57~) http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/20297d22fcd28bacdddc1cf81778d34b
かんわきゅうだい(~56) http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/a0b140d3616d89f2b5ea42346a7d80f0
閑話休題 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/c859a3480d132510c809d930cb326dfb
腎がんのメモリー http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/bee90bf51656b2d38e95ee9c0a8dd9d2
旅行記 http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/23d5db550b4853853d7e1a59dbea4b8e
新聞・TV・映画etc. http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/a7126ea61f3deb897e01ced6b3955ace
ごあいさつ http://blog.goo.ne.jp/00003193/e/7de1dfba556d627571b3a76d739e5d8c
名残の季節 https://blog.goo.ne.jp/00003193/e/ce82e1c580f64c8ab8d43e2c674a481d