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ブレグジットと国民投票

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 ブログUPするつもりではありませんでしたが、この際...(どんな際?) 
 このところ連日報道される英国議会、EUからの離脱問題。英国に限らずEU28か国、勿論!日本にも関わります。米国(トランプ)VS中国(習近平) の貿易摩擦が世界経済に及ぼす影響は一時的かもしれませんが、英国のEU離脱は長期にわたる混乱、経済低迷につながりかねず、もっと!関心を持たれるべき問題ではあります。

 日本で (団塊世代あたりまで!ですが) 「6.23」は日米安保条約。英国で 「6.23」 は EUからのブレグジット(英国Britain 離脱Exit を掛けた英国流造語)。
 2016年6月23日、EU「残留か離脱か」 の国民投票の結果は、予想を覆し世界を驚かせた 「EU離脱」 でした。その劇的攻防をダウニング街10番地(首相官邸)から描いたクレイグ・オリヴァ著「ブレグジット秘録」をご紹介します。


 ドアに「10」...ダウニング街10番(首相官邸)に入るキャメロン首相

 書の序章は「国民投票の夜」。その日から遡る半年を32章、国民投票後3章、そして終章「それで結局…?」まで660ページにわたる膨大な書です。「英国にとってEUとは何か?」 も然りながら、日本にとっては経済への影響とともに憲法96条 「憲法改正は…国民投票において、その過半数の賛成を必要とする」 にも関わります。望まずとも憲法改正の国民投票が 「身近で間近に」なりつつある今、英国の国民投票を巡るドキュメントから汲み取るべきものは少なくありません。

 著者は、キャメロン首相の信頼篤い主任報道官であり、EU残留キャンペーンを仕切りました。関わった会議、電話など総て録音したと思われる詳細でリアルな記録であり、重要な国策決定とその遂行過程を生々しく描いています。
 主な登場人物(当時)は、保守党ではEU残留のキャメロン首相、メイ内務相、EU離脱に走ったジョンソン(ロンドン市長~議員)、同じく離脱派ゴーヴ司法相。野党ではEU残留の労働党コービン党首、離脱の英国独立党ファラージュ党首。他に英国の主な報道機関トップ、歴代首相etc.
 
 なお、EU残留派のキャンペーン名は「Stronger In...EUに残留し より強い英国をめざす」 。一方 離脱派は「Vote Leave...離脱に投票し英国の独自性を護る」を掲げました。結果はご存知のとおり、投票率が72%に達し、離脱派が51.9%(1741万票) を獲得、逆転!勝利しました。


            「Stronger In」の聴衆にアピールするキャメロン首相    
 
 攻防は殆ど一点!に絞られていました。「移民政策にブレーキをかける」ためにEUを離脱!するか、それとも「EUで経済的安定をはかる」ために残留!するか...の二択! 『EUに支配されるのは厭なので感情的には離脱! でも離脱すれば経済が混乱するので理性的には残留!』。 『経済安定にはEU残留! でも残留では移民流入が止まらないので離脱!』。そんな揺れる浮動層が焦点でした。
    
 この時期、米大統領選では、民主党はヒラリー、共和党はトランプが候補者にほぼ決定。ここでも 『ヒラリーは嫌い。でもトランプはもっと嫌い』。『トランプは危険。でもヒラリーでは何も変わらない』。米英時を同じくして「正解なき結論」に迷い悩む…構図でした。米大統領選でも英国民投票でも、嘘であれ言ったもの勝ち!の「フェイク合戦」 がはびこり、私生活を暴き政治家の資質をあげつらうチキンレース(泥仕合)の様相を呈しました。短い時間でも嘘は広くバラまけますが、嘘を正すには長時間を要し、つまるところ正しきれません。。
  
 英国人と結婚され英国在留のプレディみかこさんの著「労働者階級の反乱」(光文社新書)によれば、総じて英国の中上流の層が残留!に、下層の人々がEU離脱!に投票した由。そして米大統領選の投票行動についても「中上流層がトランプに、下層の人々はヒラリーに投票した」 との最新の分析を紹介されています。これまでの定説とは趣を異にした分析ですが、そのあたりが「予想を覆す」結果の根源だったのかもしれません。
 なお、離脱!に投票した英国の下層の人々は、「トランプが大好き」「どちらかと言えばトランプが好き」をあわせても10%程度だそうです。


             EU離脱派の「Vote Leave」キャンペーンの人々

 すでに記したとおり、英国の最大野党労働党は、その支持層が EU離脱!に投票した「下層」の人々にもかかわらず、労働党としては EU残留!を掲げました。逆に、現在の首相ボリス・ジョンソン(保守党)は、国民投票当時のキャメロン首相(保守党)に造反、「下層」が支持するEU離脱!に鞍替えしました。このなんともわかりにくいところが、英国政治の難しさであり面白さでもあります。

 この秘録は、ナマ!の言行録(暴露)が売り!ですが、キャメロン首相はじめ保守党の「残留派の視点」から取捨選択され綴られています。実際、離脱!派の英国独立党ファラージュ党首への嫌悪に満ちた言葉、残留!で一致する労働党コービン党首にさえ人格攻撃が少なくありません。これに対して労働党側からは「上流階級でエリート育ち、鼻もちならない保守党の連中とは肌もあわなければ信用もできない」と。
 保守党内ではどうか。キャメロンの閣僚でありながら離脱派を仕切るゴーヴ財務相に対して著者は「英国の未来と次期首相の座を天秤にかけた」と憎々し気に批判し、細かな仕草をとらえた揶揄も散見されます。後に首相の座に就いたメイとジョソンにも「首相の座に目が眩む信用できない連中」として何かにつけ辛辣です。

 ここで参考までにサッチャー以後の英国の歴代政権を振り返ります。
 キャラハン政権(労働党)を倒し「英国病」一掃に辣腕を振るった鉄の女!サッチャー(保守党)が登場したのは1979年5月。1990年11月まで11年余にわたり英国を大改造しました。つづくメージャー(保守党)はEU発足に貢献、穏やかな政策を進めました。しかし1997年5月、サッチャーの敷いた大改造路線の綻びもあり、政権は保守党から労働党のブレアーに移り(~2007.6)、更にブラウンに引き継がれます(~2010.5)。

 二大政党制にふさわしく保守党から労働党、そして労働党から保守党...2010年5月、この秘録の主人公デービッド・キャメロン政権が誕生します。そして国民投票で敗れた2016年7月、政権は同じ保守党のテリーザ・メイに移り、更に本年7月、保守党で離脱派!だったボリス・ジョンソンの政権に移りました。


     キャメロン政権では内務相、そしてキャメロン後に首相に就いたテリーザ・メイ。

 さて、国民投票を決めた保守党キャメロン政権は割れていました。メイ内務相について著者は、次期首相を視野に傍観的だと苦々しく思い「首相の座を狙い巧みに立ち回る日和見主義者」「キャメロンに目をかけられたのに曖昧な態度をとったのはフェアじゃない」と酷評します。ジョンソンにはどうか。ジャーナリスト時代からEU懐疑(批判)派でしたが、ジョンソンの本心は残留!と看破。戦略なき戦術家、方法論を弄ぶ人物、「派手で目立ちたがり」「いつ何を言い出すかわからない」と警戒していました。

 日和見!ながらメイは残留派。が、ジョンソンは世間をアッと言わせるタイミングをはかりキャメロンと懇談した翌日に離脱表明します。著者は 「残留するために離脱に投票すると言っていたジョンソンが、離脱するために離脱に投票すると言い始めた。そして今度は英国経済が打撃を受けてもナイキのロゴマークのようにスッと回復するなどと言う」 とその軽さを揶揄します。

 メイの煮え切らない「残留」、ジョンソンの煮えたぎった「離脱」、ゴーブ司法相を含めたこの三人がキャメロンの後継を競い、著者の言葉で言えば「政治がフード・ファイト(パイの投げ合い)に」なった」英国。国の未来をかけた「残留か離脱か」が焦点ではなく、「首相の座」こそがより核心の焦点ではありました。


            メイ政権が倒れた後を受けた現首相ボリス・ジョンソン

 エピソードも随所に綴られていますが、少しだけ…。
 キャメロンは、BBCに出るのに「スーツが古くてよれよれ」に気づきスーツ2着を届けるよう指示。届けにきた女性の前でキャメロンはズボンを脱ぎ始め女性は羞かしそうに眼を逸らした由。キャメロンの何を伝えたいエピソードか、よくわかりませんが…。
 離脱派 ゴーヴ司法相は、「水洗トイレが詰まり慌てて電気掃除機で吸い出そうとした男」と容赦なく嗤われています。シャレてT.S.エリオットの詩の一節 「君が会う顔に合わせるために顔をつくる」 は、ゴーヴのいい加減さを表現する引用でした。

 閣議の描写では…閣議中にジョンソンからのメールがキャメロンに届いた、と。文面は「悩み抜いた末、自分の気持ちに正直に従い離脱を表明するが、最終的には残留に決まるだろう」。が、その直後に再びジョンソンからキャメロンに「残留に戻るかもしれない」とのメール。このエピソードなどジョンソンの本性を示すリアルな描写ですが、某国大統領だとか大阪府の元知事だとか、やたらメールだのツィッターだのを駆使し短い感覚的な言葉で世論を操り弄び、そのくせ政治の本来の場での議論は極力避けようとする、そんなまやかし政治家に共通する特徴が垣間見えます。



 短期決戦間の国民投票で報道は大きく影響します。
 日本のメディアは「不偏不党」を掲げつつ政権にベッタリ!ヨイショ!しますが、英国のメディアは不断に旗幟(拠って立つ姿勢)鮮明に論じ、読者・視聴者もメディアのそうした傾向を踏まえてニュースを理解、判断しているようです。報道にすぐ煽られる日本国民に較べ、英国民は少しオトナ!でしょうか?

 報道官の仕事はタフで、報道を徹底チェックしメディアのトップと対峙します。特定の記者へのブリーフィングだとか特ダネのリークは世論誘導と紙一重でしょう。まぁ日本でもS紙とかY紙にはありそうな(あった!)ことですが...。
 首相官邸は知力・体力・深謀遠慮をまさに総動員して報道対策を講じます。それでも「報道の自由」が侵されていないように見えるところなど、民主主義において英国はちょっとオトナ!でしょうか。 

 ただ「離脱派が流した四つの嘘」、逆に言えば「流させられた」報道機関が問題になったように、たとえ訂正されても一度流された報道は間違いもなかなか払拭されません。一度きり!の国民投票では取り返しがつきません。国民にもウソを見究める識見が問われ、知力・聴力・視力ひいては民力が問われます。



 投票一週間前。キャメロンは「結果がどうあれ首相官邸を去る」と明言、『もはやEUを巡る国民投票の勝敗を超え英国を懸けた闘いだ』と力む一方、『私はこの国の政治にこれまでになく消耗し混乱している』とボヤきます。実際、離脱派の 「離脱!に投票して英国にコントロール(自分達のことは自分達が決める)を取戻そう」とか、「経済大国英国にはEUを離脱しても明るい未来がある」との主張がじわしわと浸透、潮目は残留から離脱へと移りつつありました。

 投票日の午後、ロンドンは「空が割れたと思うほどの土砂降り」。一夜明けた24日午前4:39、BBCニュースは『1975年、EC(当時)残留を決めた選択が今回の国民投票で覆された。英国のEU残留は完全になくなった』と報じ、ポンドは暴落しました。

 著者は残留派の敗因を6点にわたり記していますが、なんとも気の毒な総括!です。
 ➀長い間、投票所に足を運ばなかった怒れる有権者が、残留派にとどめを刺した。
 ➁EUの明るい未来を描き切れず「もしEUを出れば」の言葉は脅しと受けとられた。
 ➂「浮動層は最後は現状維持(残留)を望む」との前提が誤っていた。
 ➃「誰も望まぬ移民容認か気分の悪いEU残留か」の負の選択を迫られた結果、
  体制!への不満が一気に離脱に向かわせた。
 ➄残留派は「良い闘い」を立派に闘ったが、離脱派は「悪い闘い」を不名誉に闘った。
 ➅リスクも失うものもないと考えている有権者があまりにも多かった。

 「エピローグ」では40%を割った若者(18~24歳)の投票率に触れ「これから!を生きる層の関心が特段に低かった」ことを英国の未来のために危惧しています。政治への無関心(あきらめ)層が大挙!投票所に向かったのと対照的ながら、若者のこの政治離れこそが一番コワイ!ことかもしれません。

 ニッサンなど英国に進出した海外資本の工場がある選挙区も意外な結果で、残留!は僅か33%でした。離脱すれば工場がなくなり雇用もなくなるにもかかわらず!です。「もし離脱すれば...」が脅し!と受けとられたならば、これぞ反骨!ジョンブル魂?


                   パブにて「離脱派勝利」に沈む残留派

 著書巻頭にキャメロンの象徴的な言葉が記されています。「我々はまだ見ぬ悪魔を解き放ったことになる」(これは「原題」の典拠となります)。そしてシェークスピアの言葉「大きな山が転がり出したら手を放せ。掴まってると首の骨を折るぞ」も象徴的です。もう一つ、ボリス・ジョンソンが「デーリーテレグラフ」に寄稿したコメントも紹介されていますが、余りに程度が低いのでここでは紹介しません。




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